TARTAROS 個展「Variation」
時間:2024-07-06—2024-07-31
場所:Contemporary Tokyo
この度、Contemporary Tokyo では、7月6日から7月31日までにTARTAROS 個展「Variation」を開催いたします。
TARTAROSは浮世絵が版木から多数のバリエーションが生まれる構造に着目してきました。浮世絵、紙幣に共通する、変化、変種は、TARTAROSの作品の重要な要素です。近年TARTAROSは同じ構図の作品を複数同時に創作する事で、より深く作品世界を探求しています。今回の個展では浮世絵紙幣絵画全ての新作を「variation」で展示します。
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作家の名前の由来である「タルタロス(TARTAROS)」はギリシア神話における「奈落」の神の名で、タルタロスは奈落──死後に人が向かう冥界のなかで、もっとも最奥部にある底なしのカオス──そのものであるとされている。当然、そこには近代になって生まれた国境も、ヨーロッパやアジアといった地域を画定する恣意的な境界線も存在しない。こうした意識的な名付けには、近代、ひいては近代美術の超克と更新を目論むタルタロスの表現の原動力を特定することができそうだ。タルタロスが沖縄に魅了され現在の拠点としていることは、その地が強権的な琉球処分以来、その行使者である近代日本という国家に対して独自のスタンスを維持していることと無関係ではないように思われる。
タルタロスは自身の創作を大胆にも「21世紀の偶像美術」と位置付けるが、彼の作品を仔細に眺めていくと、その理由がおのずから明らかになってくる。キャリア初期の代表作《地球に乾杯 酒呑童子対紙幣侍衆》(2017)などの平面作品には、洋の東西を問わず古代から現代にいたるまでの宗教画、浮世絵、マンガなどの多彩な要素が、それこそ「カオス」的な仕方で混在している。ハイ・カルチャーとロー(サブ)・カルチャーの区分を軽々と越境し撹乱し、そうすることで可視化される現代の多様化した「偶像」の姿──科学、セレブリティ、キャラクター、電脳空間、理想化されたライフスタイルなど──がタルタロスの作品には見事に描き出されている。
無数にある現代の偶像のうち、もっとも強い影響力をもつのが金銭にほかならない。その数ある芸術実践のなかで、そして本展において、タルタロスが紙幣を用いた絵画のシリーズを継続的に制作している要因はそうした金銭の性質にあることは明白だ。本展では、彼は誰もが知る江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎の手による富士山を題材とした『富嶽三十六景』と『富嶽百景』をモチーフに選択し、千円札やドル札を素材とした平面作品から構成されている。加えて、金箔、アクリル、ウレタンなどの異なる素材が、ひとつのタブローのなかに結集している。CGデザイナーやフィギュア原型師、はたまたデザイン雑貨の商品開発など様々な職業を渡り歩いたタルタロスの豊かな経験のなせるわざであろう。
このように現代アーティストとしてのタルタロスは、きわめてユニークな「アウトサイダー」的な立ち位置を確立しつつある。ゆえに、本展はまだその未踏の過程の途中経過を表しているにすぎない。北斎の次は、東洲斎写楽や歌川国芳の浮世絵のアプロプリエーション(転用)に挑戦することもアイデアとしてもっているとタルタロスは語っていた。オンラインでのインタビューを通じて、彼が有しているアイデアは、尽きることなく湧き出る泉のような様相を呈していると感じた。私たちが生きる21世紀という時代を透徹したまなざしで映し出す、タルタロスがその芸術作品を通して鑑賞者に示してくれるビジョンを、その展開を私は今からとても楽しみにしている。
文化研究者
山本浩貴